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横浜地方裁判所 平成9年(行ウ)23号 判決

主文

一  原告の「被告が原告に対し平成七年一一月一〇日付け及び同年一二月二七日付けでした別紙物件目録一記載の土地についての特別土地取得税の納税義務を免除できない旨の決定を取り消す。」との訴えをいずれも却下する。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告が原告に対し平成七年一一月一〇日付け及び同年一二月二七日付けでした別紙物件目録一記載の土地についての特別土地取得税の納税義務を免除できない旨の決定を取り消す。

二  被告が原告に対し平成八年一〇月一六日付けでした右土地についての特別土地保有税の納税義務を免除できない旨の決定を取り消す。

第二事案の概要

本件は、原告のした別紙物件目録一記載の土地(以下「本件土地」という。)の取得に係る特別土地保有税の納税義務免除の申請に対し、被告が平成七年一一月一〇日付け及び同年一二月二七日付けで地方税法(以下「法」という。)六〇三条の二に規定する要件に該当しないから免除できない旨の決定(以下「本件土地取得に係る保有税免除不承認決定」という。)をし、また、原告のした本件土地の所有に係る特別土地保有税の納税義務免除の申請に対し、被告が平成八年一〇月一六日付けで右と同様の理由により免除できない旨の決定(以下「本件土地所有に係る保有税免除不承認決定」という。)をしたことについて、原告が、右各不承認決定(以下、合わせて「本件各不承認決定」という。)には、法六〇三条の二の解釈適用を誤った違法があるなどとして、その取消しを求めたものである。

一  争いのない事実等(証拠の記載のない事実は争いがないものであり、証拠の記載のある事実は当該証拠により認定したものである。)及び法令の定め

1  特別土地保有税の制度

(一) 特別土地保有税は、土地の取得又は所有に対し、当該土地所在の市町村が、当該土地の取得者又は保有者に対し課す制度である(法五八五条一項。以下、土地の取得に係るものを「取得に係る保有税」と、土地の所有に係るものを「所有に係る保有税」という。)。

この特別土地保有税については、申告納付の方式が採られ、右各保有税につき、次に掲げる区分に応じ、納税申告書を市町村長に提出するとともに、その申告した税額を当該市町村に納付しなければならない(法五九九条一項)。

(1) 取得に係る保有税

イ 一月一日前一年以内に基準面積以上の土地を取得した者に係る土地の取得に対して課する特別土地保有税 その年の二月末日

ロ 七月一日前一年以内に基準面積以上の土地を取得した者に係る土地の取得に対して課する特別土地保有税 その年の八月三一日

(2) 所有に係る保有税

一月一日において基準面積以上の土地を所有する者に係る土地に対して課する特別土地保有税 その年の五月三一日

(二) 右にいう「基準面積」は、法五九五条各号に定められているが、法附則三一条の四は、その特例として、三大都市圏の特定市について、基準面積を一〇〇〇平方メートルとしている。

2  特別土地保有税の納税義務免除の制度

(一) 建物、構築物又は特定施設のうち恒久的な利用に供するものとして定められた一定の基準に適合するものの用に供する土地で、当該土地利用が当該市町村に係る土地利用基本計画等の土地利用に関する計画に照らし、当該土地を含む周辺の地域における計画的な土地利用に適合するものであることについて市町村長が特別土地保有税審議会の議を経て認定した場合には、当該土地に係る特別土地保有税の徴収金に係る納税義務は免除される(法六〇三条の二)。

(二) この納税義務の免除制度の適用を受けようとする者は、原則として法五九九条一項の納期限までに、当該市町村長に対し、その旨の申請をしなければならない(法六〇三条の二第二項本文)。

3  原告の本件土地取得等

原告は、平成六年一一月二二日、本件土地(合計二四二六平方メートル)及び地上の別紙物件目録二記載の建物(以下「本件建物」という。)を取得し、本件土地につき平成七年三月三一日売買を原因として同日所有権移転登記を了し、そこに鉄骨等の資材を置いている。(甲四の一から四、甲七)

4  本件土地取得に係る保有税免除不承認決定

(一) 右のとおり、原告は、平成七年七月一日前一年以内に基準面積を超える本件土地を取得したため、右取得に係る保有税を同年八月三一日までに申告納付すべき義務があったところ、被告に対し、同年一一月二日付けで納税義務免除の申請をした。これに対し、被告は、同年一一月一〇日付けで免除できない旨の決定(本件土地取得に係る保有税免除不承認決定)をし、右通知はそのころ原告に到達した。

(二) 原告は、被告に対し、平成七年一二月一五日、再度、(一)の保有税の納税義務の免除申請をしたが、被告は、同月二七日付けで免除できない旨の決定をし、右通知はそのころ原告に到達した。

(三) 原告は、(一)(二)の不承認決定に対し、それぞれの通知を受けた日の翌日から六〇日以内に異議の申立てをしなかった。

5  本件土地所有に係る保有税免除不承認決定

(一) 原告は、平成八年一月一日時点で本件土地を所有していたため、本件土地所有に係る保有税を同年五月三一日までに申告納付すべき義務があったところ、被告に対し、同年九月一二日付けで納税義務免除の申請をした。被告は、右免除申請に対し、平成八年一〇月一六日付けで、免除認定申請書を不受理とする通知(乙六の二。本件土地所有に係る保有税免除不承認決定)をし、右通知はそのころ原告に到達した。

(二) 原告は、右の免除不承認決定に対し、その通知を受けた日の翌日から六〇日以内に異議の申立てをしなかった。

二  本件の争点と双方の主張

本件の争点は、原告が本件各不承認決定について異議申立てを経ずに本訴を提起したことが、法一九条の一二に違反し、不適法か(争点1)、仮に右の点が適法であるとした場合、本件各不承認決定は違法か、具体的には、本件土地には法六〇三条の二第一項の特別土地保有税の納税義務免除の適用はあるか(争点2)、である。

これらについての双方の主張は以下のとおりである。

1  争点1(本件訴えの適否)について

(一) 被告の主張

(1) 本件各不承認決定の取消しの訴えは、異議申立てに対する決定を経なければ提起することができないものとされている(法一九条の一二)ところ、前記のとおり、原告は、本件各不承認決定のいずれについても、被告からその通知を受けた日の翌日から六〇日以内に異議申立てをしなかった。したがって、本件訴えは、異議申立てに対する決定を経ていないので、不適法な訴えであり、却下を免れない。

(2) この点に関する原告の後記主張は、否認ないし争う。すなわち、本件各不承認決定も不服申立ての対象となるのである。また、本件各不承認決定について不服申立てができる旨を教示しなかったとしても、右本件各不承認決定の効力を左右するものではない。

(3) なお、原告は、後記のとおり、本件土地所有に係る保有税について被告が更正決定をし、原告がこれに不服申立てをしたので、本件土地所有に係る保有税免除不承認決定の取消しを求める本訴は異議申立ての前置を経ているかのように主張する。

しかし、もともと右の更正決定は無用のものであったから、原告の右主張は前提において失当である。すなわち、原告は、平成八年度の本件土地所有に係る保有税について、平成八年九月一二日付けで申告書を提出したが、これに記載されていた課税標準及び税額に誤りはなかった。したがって、原告の右納税義務は、右申告書の提出により確定した。ところが、原告が右申告書と同時に右保有税についての免除申請書を提出し、それに伴い申告書の納付すべき税額欄に零と記載していたため、被告は、これが更正決定の対象になると誤解し、右の更正決定をした。被告のした更正決定は無用のものであったわけである。

(二) 原告の主張

原告は、本件各不承認決定に対して異議申立手続を経ていないが、本訴の提起は不適法とはいえない。その理由は以下のとおりである。

(1) 本件土地取得に係る保有税免除不承認決定の取消しと不服申立てについて

不服申立前置は法一九条に規定する処分の取消しの訴えを提起する場合に要請される(法一九条の一二)ところ、法一九条一号は、「更正若しくは決定又は賦課決定」を挙げており、本件各不承認決定はいずれも右にいう更正若しくは決定又は賦課決定に当たらない。また、被告は、本件各不承認決定に際し、不服申立てができること等を原告に教示しなかったから、右決定は不服申立てのできる処分に当たらない。

仮に右のようにいえないとしても、原告は、被告から、異議申立期間の猶予を得た。すなわち、原告は、本件土地取得に係る保有税の申告期限後である平成七年九月二七日、綾瀬市課税課に赴いたところ、担当者から、期限を過ぎても構わないから申告してほしいと言われた。そこで、原告は、同年一一月二日納付すべき税額欄を空欄とした申告書を提出しようとしたところ、被告担当者から、納付すべき税額欄に数字を入れるよう指摘された。原告は当然免除になるはずであると考え、右欄には零と記入して申告し、同時に免除申請書も提出した。このような経緯にかんがみれば、被告は、原告に対し、不服申立期間を猶予したものといえる。

(2) 本件土地所有に係る保有税免除不承認決定の取消しと不服申立てについて

原告の被告に対する平成八年九月一二日付けの所有に係る保有税の申告書及びその免除申請に対し、被告は、同年一〇月三〇日付けで更正決定をし、右決定に不服がある場合は、その通知を受け取った日の翌日から起算して六〇日以内に市長に対して不服申立てをすることができることを教示した。これに対し、原告は、右不服申立期間内である平成八年一二月二八日不服申立てをした。被告は、右不服申立てに対し、平成九年三月一三日付けでこれを棄却したので、原告は、平成九年六月一三日本訴を提起した。したがって、本件土地所有に係る保有税免除不承認決定の取消しの訴えの提起は、異議申立てを経ないことについて正当な理由がある。

2  争点2(本件各不承認決定の適否)について

(一) 被告の主張

本件各不承認決定はいずれも適法である。その理由は以下のとおりである。

(1) 法に定める免除の要件

法六〇三条の二第一項は、土地所有者等(所有者又は取得者)が所有する土地につき、市町村長が特別土地保有税に係る地方団体の徴収金に係る納税義務を免除することのできる認定基準を定めている。これを本件に関していうと、

イ 当該土地の利用が当該市町村に係る土地利用基本計画等に照らし当該土地を含む周辺の地域における計画的な土地利用に適合するものであることについて市町村長が認定したこと(同条一項本文)、

ロ 特定施設(建物などの工作物及びそれらと一体的に利用されている土地により構成されているものに限る。)で、その整備状況、利用状況等が恒久的な利用に供される特定施設に係る基準として政令で定める基準に適合するものの用に供する土地であること(同条一項二号)、が必要である。

(2) 政令の内容

右にいう「政令で定める基準」について、法施行令五四条の四七第二項は、

イ その整備状況が同一又は類似の用途に供される施設について通常必要とされる整備の水準と同程度の水準に達しているものであること、

ロ その利用が相当の期間にわたると認められること、

ハ その効用を維持するため通常必要とされる管理が行われると認められること、と定めている。

(3) 特則としての法附則の内容

また、法附則三一条の四の二(特別土地保有税の課税の特例)は、法六〇三条の二第一項二号にいう「ものの用に供する土地」について、

イ 保有に係る保有税については「昭和六一年一月一日以後取得した土地で、資材置場等の土地自体の利用を主たる目的とする特定施設のうち建物等を伴わないものとし政令で定めるものの用に供する土地を除く」と、

ロ 取得に係る保有税については「資材置場等の土地自体の利用を主たる目的とする特定施設のうち建物等を伴わないものとして政令で定めるものの用に供する土地を除く」と、定めている。

(4) 特則としての法施行令附則の内容

そして、法施行令附則一六条の二の四は、「法附則三一条の四の二第一項又は第二項の規定により読み替えられた法第六〇三条の二第一項第二号に規定する資材置場等の土地自体の利用を主たる目的とする特定施設のうち建物等を伴わないものとして政令で定めるものは、当該特定施設のうち、次に掲げる建物等及びこれらと一体的に利用されている土地により構成されているもの以外のものとする」として、同条一号に「建築基準法第七条第三項に規定する検査済証を交付された建物又は構築物」と定めている。

(5) 本件における適用結果

綾瀬市は法附則三一条の四の二にいう「特定市」に当たるから、同市内に所在する本件土地を資材置場として利用する場合について、特別土地保有税の免除を受けるには、建築基準法七条三項に規定する検査済証が交付された建物又は構築物と一体的に利用されている土地であることが必要となる。

ところが、本件建物については、右にいう検査済証が交付されておらず、保有税免除の基準に合致しないから、納税義務を免除できないとした本件各不承認決定は適法である。

(二) 原告の主張

被告の主張は争う。本件建物は三〇年間にわたり釣り堀用の事務所として利用されてきた。原告は、このような本件土地を、鉄骨等の資材置場としてふさわしい土地にするため、取得し、これを整備し、本件建物を改良しようと考えている。このような土地利用を考えている場合、保有税免除の基準に合致する。この点について、被告は、本件建物に建築基準法上の検査済証が交付されていないことを理由に、免除基準に該当しないと主張するが、法六〇三条の二第一項、法施行令五四条の四七第二項は、土地上の建物について、右のような検査済証の交付を要求していない。免除の可否は、被告主張のような形式的な基準によるのではなく、投機目的か有効利用目的かの基準によるべきである。したがって、被告のした本件各不承認決定は違法である。

第三当裁判所の判断

一  争点1(本件各訴えの適否)について

1  本件土地取得に係る二度目の保有税免除不承認決定の取消しの訴えの適否

(一) 問題の所在

原告は、本件土地取得に係る保有税免除不承認決定について平成七年一一月一〇日付けのものと同年一二月二七日付けのものとの二個の処分があるとして、その両者の取消しを求めている。申請が二つあるから応答もそれぞれ行われたものとうかがわれるが、原告の本件土地の取得という同一の課税の発生原因事実に関する保有税についての免除の許否であるから、本来は一個の処分で済むはずのものである。そこで、後の決定の処分性、その取消しの適否等を検討するために、このような少なくとも外形的に二個の決定がされた経緯をみることとする。

(二) 経緯

前記争いのない事実及び証拠(甲一三から一八、乙一五、証人Aの証言)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1) 綾瀬市総務部課課税課土地係職員(以下「本件担当職員」という。)は、原告が平成七年三月三一日付けで本件土地を取得した旨が記載された登記済通知書を法務局の出張所から交付された。この場合の取得に係る保有税の申告期限が同年八月三一日となる(法五九五条一項三号)ところ、申告がないので、本件担当職員は、原告に申告方を促す書面を送付した。

申告期限後の同年九月ないし一〇月ころ、原告の代理人の税理士から、電話で、特別土地保有税の申告と納税義務免除申請の方法等についての問い合わせがされた。その後、原告から、被告に対し、同年一一月二日付けで、特別土地保有税の申告書(甲一五)、免除認定申請書(甲一六)及び「保有税免除願」と題する書面(甲一四)が提出された。

(2) 右の申請を受けて、本件担当職員は、原告に対し、保有税の免除を受けるためには本件建物について検査済証書の写しが必要であり検査済証を紛失したときは、神奈川県行政センター建築指導二課で台帳を調べ、建築確認と検査済みであることを証明する「照合済証」の交付を受けることができることなどを指導した。

(3) しかし、原告から、右の検査済証等が提出されなかったため、被告は、平成七年一一月一〇日付けの「平成七年度特別土地保有税の納付について(通知)」と題する書面(甲一七)で、「本件土地は法六〇三条の二、第一項一号、二号に規定する免除土地に該当せず、特別土地保有税を免除することはできない旨を通知します。つきましては、税額七五七万七四〇〇円と延滞金一三万七九〇〇円の合計七七一万五三〇〇円を納付されるようお願いします。」旨を記載した書面を送付し、そのころ右書面は原告に送達された。

(4) ところが、原告は、平成七年一二月一五日付けの「代理人弁護士加賀美清七」名の「保有税免除申請書」と題する文書(甲一八)を被告に送付した。この申請書は、(1)記載の免除等に比べると、内容が詳細に記載されていた。

そこで、本件担当職員は、念のため、本件建物について検査済証が交付された事実があるかどうかを確認するため、当時大和市にあった神奈川県行政センター内の建築指導二課に赴き、建築確認処理簿を閲覧したところ、本件建物について検査済証が交付された事実がないことが判明した。

そこで、被告は、「原告代理人弁護士加賀美清七殿」として、同月二七日付けの「特別土地保有税の免除申請について」と題し、本件土地については法六〇三条の二第一項二号に規定する土地の恒久性の要件を満たしておらず、保有税免除の認定することはできない旨を記載した書面を送付し、そのころ右書面は原告代理人に送達された。

(三) 二個の通知の趣旨及び後続の通知の取消しの訴えの適否

右の事実からすると、原告はまず平成七年一一月二日に保有税の納税義務免除の申請をしているのであり、これに対し、被告は、同月一〇日付けの書面で具体的な理由を付してこれが認められない旨を通知しているのであるから、この一〇日付けの通知は、不承認決定というべきである。

そして、一度処分がされると、処分にはいわゆる公定力があるから、その処分について撤回あるいは取消しがされない限り、その処分は有効に存在するものである。したがって、原告代理人名でされた重ねての免除の申請については、被告は、本来であれば、既に同月一〇日付けで不承認をしている旨を連絡すれば足りたというべきである。しかし、同年一二月二七日付けで被告により原告代理人あてにされた通知は、その趣旨からすると、前にした不承認決定を確認したものでなく、内容的には同一ながら別の機会にされた申請に応じて別の機会に別個にされた処分と見ざるを得ない。このように本来は不必要な通知ではあるが、それが現実に行われた上、それを当然無効と扱うべき特段の事情も見当たらない。そして、この処分を争って取り消したい原告の立場からすると、当初の同年一一月一〇日付けの免除不承認決定を取り消すだけでは、なお同年一二月二七日付けの免除不承認決定が有効に残存するという懸念を抱かれるのであるから、この同年一二月二七日付けの処分の取消しの訴えは、処分でないものの取消しを求めるから不適法ということはできないし、同年一一月一〇日付けの免除不承認決定があることの一事で訴えの利益がないということもできないと解する。

2  取得に係る保有税免除不承認決定(平成七年一一月一〇日付け及び同年一二月二七日付けの両処分)の取消しの訴えと不服申立前置との関係

(一) 不服申立前置の要請

標記の取得に係る保有税免除不承認決定(二個の処分)は、法一九条一号に定める「更正若しくは決定(第五号に掲げるものを除く。)又は賦課決定」に該当する。そうすると、その取消しの訴えは、不服申立手続を経た後でなければ提起することはできない。法一九条の一二が、「第十九条に規定する処分の取消の訴えは、当該処分についての異議申立ては又は審査請求に対する決定又は裁決を経た後でなければ、提起することができない。」と定めているからである。

ところが、標記の取得に係る保有税免除不承認決定(二個の処分)について、原告が異議申立てをしていないことは当事者間に争いがないから、右の取消しを求める本件訴えは、異議申立てに対する決定を経ずに提起されたものであり、不適法であるから、却下を免れない。

(二) 後続の申立てと異議申立てとの関係

もっとも、前記認定のとおり、原告は、平成七年一一月一〇日付けでされた免除不承認決定がされた後六〇日以内に当たる同年一二月一八日に再度被告に対し、免除認定申請をしているから、これが当初の不承認決定に対する異議申立てに当たらないかが一応問題となる。しかし、後にされた免除認定申請は、原告の代理人である弁護士がしたもので、申請の趣旨として、保有税の納税義務の免除を求めることが明確に記載され、しかも、前に保有税免除不承認決定を受け、これについて不服である旨の記載は全くないのであるから、これをもって異議申立てと解することはできない。

(三) 教示との関係

原告は、本件土地取得に係る保有税免除不承認決定に際し、被告が不服申立てができること等を原告に教示しなかったから、原告がこれを経ていないことについて、正当な理由があると主張する。確かに、右書面には、不服申立てをすることができる旨並びに不服申立てをすべき行政庁及び不服申立てをすることができる期間についての記載がなかった(甲一七、甲一九)。

しかし、行政庁が不服申立てを要しないと誤った教示をしたというわけでもなく、不服申立期間等について教示しなかったからというだけで、異議申立てを経由しないことについて、正当な理由があるとすることはできない。

また、原告は、被告から、異議申立期間の猶予を得たと主張するが、これを認めるに足りる証拠はないし、期間経過後に異議申立てをしたわけでもない。

(四) まとめ

したがって、原告の本件土地取得に係る保有税免除不承認決定(二個の処分)の取消しを求める訴えは、いずれも不適法であり、却下を免れない。

3  本件土地所有に係る保有税免除不承認決定取消しの訴えの適否

(一) 不服申立ての不存在と経緯

本件土地所有に係る保有税免除不承認決定についても、原告は不服申立てをしていない。そこで、この所有に係る保有税免除不承認決定の取消しの訴えが不適法かが問題となる。この点につき、原告は、不服申立てを経ないことにつき正当の理由があると主張するので、経緯を検討する。

前記争いのない事実及び証拠(甲二〇から二三、甲二四の一・二、乙六の一・二、乙一一、乙一二の一・二、乙一三から一五、証人Aの証言)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1) 本件担当職員は、平成八年五月一日、本件土地について、平成八年度の土地所有に係る保有税の申告納付期限(五月三一日)が近づいてきたので、原告に対し、「特別土地保有税の申告について」と題する文書を送付した。

原告は、右の申告期限までには申告書を提出しなかったが、同年九月一二日に右申告書(乙一一)と免除認定申請書(甲二一)を被告に送付した。この申告書は、課税標準額を二億五二八二万円、税額を三四一万二五〇〇円と記載し、納付すべき税額について、納税義務免除の認定が受けられるものと仮定して、これを零円と記載していた。

(2) 本件担当職員は、右の課税標準額及び税額に誤りはないと判断したが、納付すべき税額を零円と記載していたため、「税額が調査したところと異なる」(法六〇六条)と考え、原告に対し、平成八年一〇月一六日、「平成八年度特別土地保有税免除認定申請書の不受理及び修正申告書の提出について(通知)」と題する同日付け書面(乙六の二)を送付し、原告の提出した免除認定申請書を返戻した。

(3) しかし、原告から修正申告書の提出がなかったため、被告は、「平成八年度特別土地保有税申告書の更正について(通知)」と題する平成八年一〇月三〇日付けの書面(甲二二)に、課税標準額を二億五二八二万円、算出税額及び納付税額を共に三四一万二五〇〇円と記載し、法六〇六条二項の規定により課税標準及び税額を更正する旨記載して、そのころ右書面を原告に送付した。なお、右書面には、「この更正に不服がある場合は、この通知書を受け取った日の翌日から六〇日以内に市長に対して不服の申し立てをすることができます。」との記載がされていた。

(4) その後、被告は、原告から、平成九年一月六日、「更正決定に対する不服申立書」と題する平成八年一二月二八日付けの書面を受理した。

本件担当職員は、この書面が更正決定の通知の翌日から六〇日以内にされた異議の申立てであると判断し、平成九年二月二四日、綾瀬市特別土地保有税審議会に対し、免除申請についての求意見の手続を取ることにした。その結果、同年三月五日付けで、同審議会から、免除することは不相当であるとの答申がされた。そこで、被告は、同月一三日付けで、原告に対し、原告から平成八年一二月二八日付けで提出された平成八年度特別土地保有税の更正決定に対する不服申立てを棄却する旨の決定をし、そのころ右書面を原告に通知した。

(5) 原告は、平成九年六月一三日、横浜地方裁判所に、右の棄却決定等の取消しを求める訴えを提起し、後にこの訴えは、本件各不承認決定の取消しを求める訴えに訂正された。

以上のとおり認められる。

(二) 本件土地所有に係る保有税についての免除拒否処分の存在と更正処分の不存在

前記認定の事実によれば、原告は、本件土地所有に係る保有税の免除申請を行い、併せて納付すべき税額を零円とする保有税について申告書を提出しているところ、申告書には課税標準額及び税額その他の自治省令で定める事項を記載することが必要である(法五九九条一項)から、課税標準額及び算出税額が記載されかつ被告の計算と一致し、納付すべき税額だけが異なるもののその記載のある右の申告書の提出は有効な申告ということができる。そして、被告のした更正は、課税標準額及び算出税額とも原告の申告と一致し、専ら納付税額が零円(原告の申告)か、三四一万二〇〇〇円(甲二二の更正通知)かの点で異なるものである。そして、原告は申告と同時に本件土地所有に係る保有税の免除申請(甲二一)をしているところ、被告は更正に先立ち原告からの免除申請を不受理として申請書を返戻している(乙六の二)から、納付税額の違いは、免除を受けられるとの前提により零円とした原告とこれを受けられないとして算出税額と同額であるとした被告との立場の相違によるということができる。そうすると、所有に係る保有税の免除申請書を不受理として返戻した被告の行為は、免除申請を実質的に否定した処分であり、更正は、申告の是認と免除拒否の結果とを通知した趣旨のものであって本来の意味での更正ではないと解するのが相当である。

(三) 不服申立ての存否と正当な理由の有無

そして、本件においては、被告が誤解を与える「更正」の通知を不服申立ての教示を伴う形で行い、かつ、不服申立ての教示を必要とする所有に係る保有税の免除申請を拒否する旨の処分を明示的にしないで申請書を返戻し、もとよりこれについて処分である旨の告知も不服申立てができる旨の教示もしなかったものである。そのことが影響したため、原告は、本件土地所有に係る保有税免除不承認決定に対してではなく.「更正」の通知に対して不服申立てをしたわけである。

そうすると、本来、原告としては、被告から免除認定の申請を不受理とする旨の通知を受けた段階で、これを免除申請に対する拒否処分と解して、行政不服審査法に基づき異議申立てをすべきであったといえるが、右のような事情下で、そのような行動を原告に求めるのは多分に無理を強いる感があり、酷というべきである。むしろ、原告は「更正」、についての教示に従い不服申立てをした結果、免除認定申請の不受理を争う機会を逸したものというべきであるから、原告には、免除拒否についての異議申立てを経ずにその取消しの本訴を提起したことに、行政事件訴訟法八条二項三号にいう正当な理由があるというべきである。したがって、この点の被告の主張は理由がない。

二  争点2 (本件土地所有に係る免除不承認決定の適否)について

1  対象

一のとおりであるから、進んで本件土地所有に係る免除不承認決定が内容的に違法かどうかの本案の検討を行う。

2  所有に係る保有税の免除に関する規定の趣旨

(一) 所有に係る保有税について納税義務の免除を受けるためには、資材置場として利用されている本件土地に即していうと、次の二つの要件に適合するものであることについて、市町村長の認定を受ける必要がある(法六〇三条の二第一項)。

(1) 当該土地が工場施設、競技場施設その他の施設(建物、構築物その他の工作物及びこれらと一体的に利用されている土地により構成されているものに限る。)で、その整備状況、利用状況等が恒久的な利用に供される特定施設に係る一定の基準に適合するものの用に供する土地であること(同項二号。いわゆる恒久性の要件)

(2) 当該土地の利用が国土利用計画法に規定する土地利用基本計画、都市計画その他の土地利用に関する計画に照らし、当該土地を含む周辺の地域における計画的な土地利用に適合すること(同項本文。いわゆる土地利用計画適合性の要件)。

(二) この(一)(1)にいう「特定施設」とは、規定にあるとおり、建物、構築物その他の工作物及びこれらと一体的に利用されている土地により構成されているものをいうのであり、単なる物をいうのではなく、また、単なる場所的な意味のスペ―スをいうものではなく、当該土地に常置されている建物、構築物その他の工作物及びこれらと一体的に利用されている土地によって構成され、積極的に特定の効用を果たしている物的施設の総合体をいう。規定にある工場施設、競技場施設は例示であり(乙三の一)、駐車場、資材置場等が対象となると解される。

この免除の制度は、昭和五三年に導入されたもので、恒久的な施設等の用に供する土地に係る保有税について納税義務の免除を認める趣旨のものである(乙三の一)。

3  三大都市圏における免除制度についての特例

(一) 特例の内容

平成三年度の税制改正により、時限的に納税義務の免除の対象を一部縮減する旨の改正が行われ、法附則三一条の四の二が設けられたが、これは、地価高騰が著しく土地問題の深刻な三大都市圏の特定市を対象に、土地自体の利用を主たる目的とする一定の特定施設の用に供する土地を保有税の納税義務の免除の対象としないこととする特例を設けたものである(乙三の二)。

すなわち、本件に即していうと、保有税の免除に関する前記の恒久性の要件に関する法六〇三条の三第一項二号にいう「ものの用に供する土地」について、「昭和六一年一月一日以後取得した土地で、資材置場等の土地自体の利用を主たる目的とする特定施設のうち建物等を伴わないものとして政令で定めるものの用に供する土地を除く」とされた。そして、右規定を受けた法施行令附則一六条の二の四は、「法附則三一条の四の二第一項又は第二項の規定により読み替えられた法第六〇三条の二第一項第二号に規定する駐車場、資材置場その他の土地自体の利用を主たる目的とする特定施設のうち建物又は構築物を伴わないものとして政令で定めるものは、当該特定施設のうち、次に掲げる建物等及びこれと一体的に利用されている土地により構成されているもの以外のものとする」として、同条一号に「建築基準法第七条第三項に規定する検査済証を交付された建物又は構築物」と定めた。

これにより、三大都市圏の特定市の区域内に所在する土地で、駐車場、資材置場等として利用されている土地は、建築基準法七条三項に規定する検査済証を交付された建物又は構築物を伴っていなければ、免除制度の適用を受けることができないとされた。綾瀬市は、右にいう「三大都市圏の特定市」に当たる(法附則三一条の四)。

(二) 特例の趣旨

(一)のような特例が設けられたことの背景には、地価高騰が著しく土地問題が深刻な三大都市圏の特定市においては、投機的取引により取得した土地を一時的に青空駐車場、資材置場等に転用しているのではないかと思われる事例であっても、客観的・外形的にはその判断が困難なため、特別土地保有税の納税義務の免除が行われる事例が少なくないこと等により、投機的土地取引の抑制と土地の有効利用の促進を目的とする政策税制である特別土地保有税がその期待される役割を十分に果たしていないとの指摘がされていたことが挙げられる。

このようなことが背景となり、特別土地保有税の機能をより高めるため、恒久的な利用が行われるかどうかの判断が難しい土地自体の利用を主たる目的とする特定施設(駐車場、資材置場等)の用に供される土地については、恒久的に利用しているか否かの判断を新たに外形的・客観的な基準で行うこととし、検査済証を交付された建物等を伴っていないものは、免除の対象から除外することとされたものである。右の特例の立法趣旨及び法附則三一条の四の二の「伴わないものとして政令で定めるもの」という規定ぶりなどからすると、保有税免除の制度は、本来は、恒久施設については保有税を課す必要がないという考え方で設けられていたのであるが、恒久性の判定が微妙な事案もあるので、地価高騰の著しい三大都市圏の特定市という地域を限定した上、そこにおいて施設よりも土地自体の利用を主たる目的とすると定型的に評価できる駐車場、資材置場等については、一時的に投機的取引の隠れ蓑に利用される危険性があるにもかかわらず、それを防ぐための効果的な手段が見当たらないことにかんがみ、時限的に、真実は恒久性のあるものであっても、いわば外形的形式的に、検査済証を交付された建物等を伴わない限り、保有税の免除対象としないとしたものと解される。

このような立法趣旨と内容とからすると、三大都市圏の特定市に所在する土地で、駐車場、資材置場等として利用されている土地について、建築基準法七条三項に規定する検査済証を交付された建物等を伴っていなければ免除制度の適用を受けることができないとしたのは、それなりに合理性があり、やむを得ないというべきである。

4  本件土地の所有に係る保有税の免除要件該当性の有無

証拠(甲一一の一から四、甲一二の一から六、甲二八、原告代表者尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば、本件土地は、もと釣り堀として利用されていたが、原告が取得して以来、池沼が埋め立てられ、現在は鉄骨等の資材置場として利用されていること、その一画には本件建物が存在するところ、右建物について、本件担当職員が、平成七年当時、大和市所在の神奈川県行政センター内の建築指導二課を訪れ、建築確認処理簿を閲覧し、検査済証が交付された事実があるかどうかについて調査したところ、その事実のないことが判明したことが認められる。

右事実によれば、本件建物は、建築基準法七条三項に規定する検査済証が交付された建物とはいえないから、本件土地は保有税免除認定の要件を欠くものといわなければならない。

5  原告の主張に対する判断

この点について、原告は、本件建物に建築基準法上の検査済証が交付されていないことを理由に、保有税の免除基準に該当しないとするのは失当であると主張する。

しかし、法附則三一条の四の二が三大都市圏の特定市に所在する土地を対象として保有税の免除制度を縮減し、法施行令附則一六条の二の四は、これらの区域内に所在する土地で、駐車場、資材置場等として利用されている土地は、建築基準法七条三項に規定する検査済証を交付された建物又は構築物を伴っていなければ免除制度の適用を受けることができないとしており、そのことには前記のような合理的な理由があると解される。

そうすると、建築基準法七条三項に規定する検査済証を交付された建物等を伴っていない本件土地について、所有に係る保有税の免除制度の適用を受けることができないのは、それなりに合理性があり、やむを得ないというべきである。したがって、これを基準としてされた本件土地所有に係る保有税免除不承認決定は適法というべきであり、そこに原告の主張するような違法があるということはできない。

なお、原告としては、特別土地保有税の納税義務の免除を受けようとすれば、本件建物を既存建物としてこれを増改築するなりし、建築基準法七条三項に規定する検査済証の交付を受ければよかったのであり、それを行うだけの時間的余裕もあったというべきであるから、そのようなことをも総合考慮すると、右の結論も必ずしも原告に酷な結果になるとはいえない。

三  結論

よって、原告の本件土地取得に係る保有税免除不承認決定の取消しを求める訴えはいずれも不適法であるから却下し、本件土地所有に係る保有税免除不承認決定の取消しを求める請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡光民雄 裁判官 近藤壽邦 裁判官 弘中聡浩)

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